最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)1167号 判決 1986年9月04日
主文
原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、第一審判決を取り消す。
被上告人の抹消登記手続請求に係る訴えをいずれも却下する。
被上告人が上告人の代表役員であることの確認を求める部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
第二項についての訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。
理由
上告代理人阿部幸作の上告理由第三点について
宗教法人の代表役員に就任した者(以下「就任者」という。)が、宗教法人に対し、その代表役員の地位にあることの確認を訴求するとともに、右就任後に宗教法人のした就任者についての解任及びその後に代表役員に就任したとしている者(以下「後任者ら」という。)についての就任又は辞任の各登記の抹消登記の申請をすべきことを求めて訴えを提起したときは、右訴えは、その利益を欠き、不適法というべきである。けだし、就任者が当該宗教法人の代表役員の地位にあることを確認する判決は、就任者がその就任後口頭弁論終結の時に至るまで代表役員たる地位を喪失していないことを理由とするものであるところ、宗教法人法一八条一項は宗教法人の代表役員を一名に限定しているので、右就任後に右宗教法人が就任者の解任、後任者らの代表役員就任又は辞任の各登記をしているとしても、これらの解任、就任又は辞任はいずれも無効というべきことになるから、右確認判決が確定するときには、就任者は、右宗教法人の代表役員として、右確定判決の謄本を登記事項に無効の原因があることを証する書面として添付し、右各登記が同法六五条の準用する商業登記法一〇九条一項二号本文に該当することを理由に、その抹消登記の申請をすることができるからである。
本件において、(1) 被上告人は、上告人に対し、神戸地方法務局昭和四五年九月二九日受付をもつてされた上告人の代表役員大崎良三解任及び同丹波恵就任の各登記の抹消登記手続を求める訴えを提起し、第一審はこれを認容したこと、(2) 被上告人は、上告人の控訴に伴つて附帯控訴をしたうえ、上告人に対し、被上告人が上告人の代表役員たる地位にあることの確認を求め(以下「本件確認請求」という。)、これとともに同地方法務局昭和五〇年八月四日受付をもつてされた上告人の代表役員丹波恵辞任及び同田口光秀就任の各登記(以下、右(1)及び(2)記載の各登記を併せて「本件各登記」という。)の抹消登記手続を求める訴えを追加し、原審は、右各請求を正当として認容すべきであるとし、上告人の控訴を棄却するとともに被上告人の新たな請求を認容したことが明らかであるところ、本件確認請求を認容する判決が確定するときは、被上告人は、上告人の代表役員として本件各登記の抹消登記の申請をすることができることは、前段説示のとおりであるから、本件確認請求に係る訴えとともに提起されている本件各登記の抹消登記手続を求める訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものというべきである。したがつて、被上告人の本件各登記の抹消登記手続を求める訴えを適法として本案について判断をした原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、右部分についての原判決は破棄を免れない。そして、上告人の代表役員大崎良三解任及び同丹波恵就任の各登記の抹消登記手続を求める訴えについて本案の判断をした第一審判決は、不適法な訴えについて実体判断をしたことに帰し、不当であるから、これを取り消したうえ、本件各登記の抹消登記手続を求める訴えをいずれも却下することとする。
同第一点について
原審は、昭和四五年三月一九日に開催された日本基督教会近畿中会(以下「近畿中会」という。)において被上告人を上告人の主任教師(牧師)から解職する旨の決議(以下「本件解職決議」という。)をしたので、被上告人の主任教師たる地位は失われたとの上告人の主張について、本件全証拠によるも本件解職決議がされたことを認めるに足りないとして、これを排斥している。
しかしながら、記録を検討すると、本件解職決議がされたことをうかがわせる次のような証拠の存在することが認められる。すなわち、(一) 甲第二号証及び乙第四号証(第一九回日本基督教会近畿中会記録)は、近畿中会において、常置委員会から「住吉教会は独立教会としての組織を維持するに足る実力を欠くに至り、また当分の間、長老を選出して小会を組織することができない状態にあるので、本中会はこれを解散して伝道教会とすることを建議する。」との「住吉教会正常化に関する建議案」(以下「建議案」という。)が提出され、建議案を審議する過程で、常置委員から、住吉教会を解散して伝道教会たらしめることは、当然被上告人の牧師解職をも意味するとの説明がされ、そのうえで、建議案が決議されたことを、(二) 甲第四号証(解任書)は、近畿中会議長丹波恵が昭和四五年三月一九日付で「あなたは日本基督教会住吉教会の主任教師(代表役員)でありましたが昭和四五年三月一九日付をもつてその職務を解任します。」との解任書を被上告人宛に発送したこを、また、乙第三二号証は、丹波恵が同年四月一三日付で「貴殿は去る三月一八日一九日両日大阪姫松教会に於て開催された第一九回日本基督教会近畿中会の決議に基づき住吉教会牧師を解職されましたことを御通知致します。」との解職通知書を被上告人宛に発送したことを、(三) 甲第三号証(近畿中会議事録)、同第二一号証(臨時常置委員会議事録)及び同第六号証(丹波恵作成の同月一九日付承諾書)は、同月一九日の常置委員会において丹波恵が上告人の主任教師に選任され、同人がこれを承諾したことをそれぞれうかがわせるものであるうえ、右各書証が真正に成立したことについては、当事者間に争いがないのみでなく、他にも右の事実を裏づける証拠が存することが認められるのであり、これらの証拠の信用性が肯定されるときには、近畿中会において、単に建議案に示された解散決議がされたのみでなく、それとともに、被上告人を上告人の主任教師たる地位から解任する旨の決議も併せてされたものと認める余地があるものといえるから、原審としては、右証拠の信用性の有無につき判断を加え、本件解職決議についての上告人の前記主張の当否について審理判断すべきであつたというべきところ、原判決は、これをすることなく、単に本件全証拠をもつてしても本件解職決議を認めるに足りないとしているにとどまるから、原判決には審理不尽、理由不備の違法があるものといわざるをえない。この点の違法をいう論旨は理由があるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中被上告人が上告人の代表役員であることを確認した部分は破棄を免れない。そして、右の点について更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫)